2026年前半の相場変動で、つみたてNISAや新NISAの積立残高に含み損を抱える会社員が増えています。同じ含み損でも特定口座であれば「損出し」で翌年以降の節税に活かせますが、NISA口座の損失は損益通算・繰越控除の対象外という制度上の盲点が、いまだに正確に伝わっていません。
本記事では、新NISA・つみたてNISAを始めて1〜2年の会社員層に向けて、NISAの損失が税務上どのように扱われるのか、特定口座と併用しているときに年末までにやるべき損出しの判断軸、そして売却後にNISA枠を再利用する翌年枠の考え方を、税理士&FPの目線で整理します。
葵
NISAの損失が損益通算・繰越控除の対象外である理由
まず結論として、NISA口座(つみたてNISA・成長投資枠の両方)で発生した売却損は、他口座の利益との損益通算に使えず、翌年以降の3年繰越控除にも使えません。制度上、税務上の損失として認識されないため、確定申告書に載せることもできません。
NISAは「そもそも税務上の口座として存在しない」扱い
NISA口座の売却益に税金がかからないのは、そこで発生した利益・損失を税務計算の対象外に置くという設計だからです。利益が非課税である裏側で、損失も税務上「なかったこと」になります。特定口座で年間+50万円、NISAで▲30万円という状態でも、税務では特定口座の+50万円だけが課税対象になり、NISAの▲30万円は差し引けません。
特定口座・一般口座との違いを整理
| 口座区分 | 利益への課税 | 損失の損益通算 | 損失の3年繰越控除 |
|---|---|---|---|
| NISA(つみたて・成長投資枠) | 非課税 | 不可 | 不可 |
| 特定口座(源泉徴収あり) | 約20.315% | 可能 | 可能(確定申告必要) |
| 特定口座(源泉徴収なし) | 約20.315% | 可能 | 可能(確定申告必要) |
| 一般口座 | 約20.315% | 可能 | 可能(確定申告必要) |
NISAで損した分を「特定口座の利益から引く」ような操作は制度上できないため、税務で動かせるのは特定口座・一般口座側の利益と損失だけです。年末の判断はこの一点を出発点にすると整理が進みます。
特定口座と併用中に、年末までにやるべき損出しの判断軸
NISAの損失が税務で使えない以上、節税で動かせるのは特定口座側です。年内に含み益を確定させている、または受取配当金がある会社員は、特定口座で抱える含み損を年内に売却して損益通算に充てる(いわゆる損出し)ことで税負担を減らせるケースがあります。
損出しが効く3つの条件
- 特定口座または一般口座で、年間の売却益や配当が既にプラスになっている
- 同じ口座内、または他の特定口座で、含み損を抱えた銘柄・投信を保有している
- 売却後も同水準のリスク資産を継続保有したい意向がある(翌営業日に買い直せる)
3つ目の「買い直し」は、同一銘柄を同日中に売って買うと平均取得価額の計算がややこしくなるため、翌営業日以降の建て直しが実務上シンプルです。
年間+30万円の利益が出ている会社員のシミュレーション
特定口座の年間譲渡益・配当が+30万円、含み損を抱えた投信が▲20万円分あるケースで、損出しをした場合としなかった場合を比較します。
| ケース | 特定口座の年間損益 | 課税所得(譲渡・配当) | 税額(約20.315%) | NISAの含み損 |
|---|---|---|---|---|
| 損出し前 | +30万円 | +30万円 | 約60,945円 | ▲15万円(税務対象外) |
| 特定口座で▲20万円損出し | +10万円 | +10万円 | 約20,315円 | ▲15万円(税務対象外) |
| 差額(節税効果) | – | – | 約40,630円 | – |
NISAの含み損▲15万円はどちらのケースでも税務で動かせませんが、特定口座の含み損を活用するだけで約4万円の税額差になります。年末の売却タイミングは受渡日ベースで判断されるため、大納会の2営業日前を目安に動くのが実務上の安全ラインです。
ひより
売却したNISA枠は翌年戻る|再利用のルール
新NISAでは、売却した非課税枠は翌年以降に簿価残高ベースで復活します。含み損状態でも枠自体は戻るため、「損したから枠を失う」わけではありません。ただし、復活のタイミングと計算根拠には誤解が多い点です。
簿価残高ベースの枠復活ルール
枠復活は「売却した時価」ではなく「取得価額(簿価)」がベースです。100万円で買った投信が80万円で売却された場合、翌年に復活するのは100万円分の非課税枠。含み損分を差し引かれるわけではありません。年間投資枠(つみたて120万円・成長投資枠240万円)と生涯投資枠1,800万円のうち、生涯投資枠のほうが再利用の対象になります。
売却したその年に枠が戻るわけではない点に注意
復活は「翌年」からです。2026年内に売却しても、その年に売却分を買い直しても年間投資枠は減ったままなので、リバランス目的の売却では年内の枠計画を崩さないよう意識してください。売却→翌年再投資という時間軸で組み立てるのが、新NISAの設計に沿った動き方です。
判断フロー|NISAで含み損を抱えたときの動き方
ここまでの整理を踏まえて、含み損に直面したときの判断フローを1枚に整理します。
年末までに確認すべき4つのステップ
| ステップ | 確認すること | 判断の基準 |
|---|---|---|
| ① | 特定口座で年間譲渡益・配当がプラスになっているか | プラスなら損出しの余地あり |
| ② | 特定口座に含み損の銘柄・投信があるか | あれば損出し検討へ |
| ③ | NISAの含み損銘柄を長期で持ち続ける方針か | 方針変更なら翌年枠での買い直し前提で整理 |
| ④ | 売却後の資産配分が計画から大きく崩れないか | 崩れるなら段階売却または翌年枠での再構築 |
ありがちな誤解と対策
- 「NISAで損したから確定申告する」→ 記載する場所自体がないため申告しない
- 「NISAの損を特定口座の利益と相殺できる」→ 制度上できない
- 「NISAで売れば同じ年に枠が戻る」→ 復活は翌年以降
- 「損出しは何月にやってもいい」→ 受渡日ベースで年内に完了する必要あり
この4点は毎年12月に問い合わせの多い誤解です。年末に慌てないよう、11月末までにポジションを棚卸ししておくのがFP目線での定石です。
まとめ|税務で動かせるのは特定口座と翌年枠だけ
NISAの含み損は、税務上は「動かせない損失」です。損益通算も繰越控除も使えない代わりに、非課税枠自体は簿価ベースで翌年に復活します。動かせるのは特定口座・一般口座側の損出しと、翌年以降のNISA枠の設計だけ。この整理をしておけば、年末の相場変動に振り回されず、家計にとって最適な出口設計を組み立てられます。
葵
税務・資産運用・ライフプランの実務を担い、FinLaboの全記事を監修。
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※ 本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。制度・税制・市況は変更される可能性があります。投資判断は読者自身の責任で行ってください。


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