生命保険の保険料は、家計の固定費のなかでも住宅ローンや教育費に次ぐ大きな項目になりがちです。FinLaboでは「保険ショップで勧められた金額をそのまま契約してしまった」という相談を多くいただきます。本記事では、共働き・DINKs・子育て期という3つの世帯属性ごとに、生命保険の必要保障額がどのくらい変わるのかを、2026年度の遺族年金支給額と新NISAの積立残高シミュレーションを軸に整理します。
葵
必要保障額の基本式と前提パラメータ
生命保険の必要保障額は、世帯主に万一のことがあった場合に「遺された家族が困らない金額」として算出します。FinLaboで使う基本式はシンプルです。
必要保障額の計算式
必要保障額 = 遺族の生活費 + 子の教育費 + 葬儀費・整理資金 − 公的保障(遺族年金) − 遺族の就労収入 − 既存の貯蓄・新NISA残高
左辺は「将来必要なお金」、右辺は「すでに用意できているお金」です。差額を保険でカバーするという発想で、保険会社のシミュレーションが弾く金額より小さくなることがほとんどです。
前提パラメータの目安
| 項目 | 目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 遺族の生活費 | 現在の生活費×70%×残り年数 | 世帯主が抜けると食費・通信費など2〜3割減るのが一般的 |
| 子の教育費 | 1人あたり1,000万円(高校公立・大学私立文系) | 大学理系・私立医歯系はさらに上乗せ |
| 葬儀費・整理資金 | 200万〜300万円 | 葬儀110万円+住居・遺品整理100万円程度 |
| 遺族年金 | 年100万〜180万円 | 世帯属性と子の有無で大きく変動。次章で解説 |
| 遺族の就労収入 | 残されたパートナーの年収×残り就労年数 | 共働きなら大きく、専業ならゼロ評価が安全 |
この前提を1つずつ自分の家計に当てはめると、保険会社のヒアリングシートを使わなくても必要保障額をはじき出せます。
遺族年金の支給額目安(2026年度)
遺族年金は遺族基礎年金と遺族厚生年金の2階建てで、世帯主の働き方と子の有無で支給額が大きく変わります。2026年度の最新値(厚生労働省)で目安を整理します。
遺族基礎年金(2026年度)
- 基本額:年816,000円
- 子の加算:第1子・第2子は各234,800円、第3子以降は各78,300円
- 受給対象:18歳到達年度末(高校卒業)まで
たとえば子2人の場合、816,000円+234,800円×2=年1,285,600円が遺族基礎年金として支給されます。子が高校を卒業すると一気にゼロになる点に注意が必要です。
遺族厚生年金(会社員・公務員世帯のみ)
- 会社員として加入した期間の老齢厚生年金の3/4相当額
- 平均的な会社員(生涯平均年収500万円・加入35年)で年60万〜90万円が目安
- 子のいない30歳未満の配偶者は5年間の有期支給に短縮(2026年度時点)
世帯属性別の遺族年金合計(イメージ)
| 世帯属性 | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | 合計(年額) |
|---|---|---|---|
| 会社員+子2人 | 約128万円 | 約75万円 | 約203万円 |
| 会社員+子なし(DINKs) | 0円 | 約75万円 | 約75万円 |
| 自営業+子2人 | 約128万円 | 0円 | 約128万円 |
| 自営業+子なし | 0円 | 0円 | 0円 |
自営業世帯は遺族厚生年金がなく、公的保障が薄くなる構造です。逆に会社員+子2人の世帯は、遺族年金だけで年200万円超が確保されているため、必要保障額は意外と小さくなります。
ひより
共働き世帯の生命保険適正額
共働き世帯は、遺族年金(遺族厚生年金が両側にある)に加えて、残された側の就労収入も計算に入れられます。そのため、生命保険の必要保障額は世間で言われるほど大きくならないケースが多いのが実情です。
ケース:会社員夫婦・子2人・末子5歳
前提:世帯主の年収600万円/パートナー年収400万円/月の生活費35万円/貯蓄+新NISA残高800万円
- 遺族の生活費:35万円×70%×35年=1億290万円(パートナー55歳までを想定)
- 子の教育費:1,000万円×2人=2,000万円
- 葬儀費・整理資金:300万円
- 必要額合計:約1億2,590万円
次に、すでに用意できているお金を差し引きます。
- 遺族年金:末子18歳まで年203万円×13年=2,639万円、その後の遺族厚生年金75万円×22年=1,650万円(パートナー55歳まで)
- パートナー就労収入:400万円×手取り率0.8×22年=7,040万円
- 既存の貯蓄・新NISA:800万円
- 準備済み合計:約1億2,129万円
差額の約460万円が必要保障額になります。世帯主の生命保険は、1,000万円弱の収入保障保険か定期保険で十分という結論です。保険ショップの初期提案(一般に3,000万〜5,000万円)からは大幅に下がります。
DINKs世帯の死亡保障設計
DINKs(子なし共働き)世帯は、もっとも生命保険の必要性が低い世帯属性です。遺された側の生活費は本人の収入で賄える前提が成立しやすいためです。
DINKs世帯の必要保障額の考え方
- 遺族の生活費:単身の生活費(月18万〜20万円)まで縮小可能
- 教育費:不要
- 住宅ローン:団信で完済される(ペアローンの場合は自分の借入分のみ完済)
- 遺族厚生年金:会社員なら年60万〜90万円が支給される
住宅ローンが団信で消え、遺族厚生年金と本人の収入があれば、追加の生命保険は不要というケースも珍しくありません。葬儀費・整理資金として300万〜500万円の少額の終身保険、または貯蓄でカバーするのが現実的です。
ペアローンの場合の注意点
住宅ローンをペアローンで組んでいる場合、団信で完済されるのは自分の借入分だけです。残された側のローンは残り続けるため、その分の保障を別途用意する必要があります。たとえば3,000万円のペアローンを2人で1,500万円ずつ組んでいる場合、世帯主に万一のことがあっても1,500万円のローンは残ります。この場合、収入保障保険で月10万円×10年(総額1,200万円相当)を準備するのが目安です。
子育て期の必要保障額がピークになる構造
子育て期は生涯のなかで必要保障額がもっとも大きくなるタイミングです。末子が大学を卒業するまでの約20年間、教育費と遺族の生活費が同時にのしかかるためです。
必要保障額の山型カーブ
| ライフステージ | 必要保障額の目安 | 主因 |
|---|---|---|
| 独身期 | 0〜300万円 | 葬儀費のみ |
| 新婚(DINKs) | 300万〜500万円 | 葬儀費+住宅ローンの残り分(ペアローン時) |
| 第1子誕生〜小学校入学 | 3,000万〜5,000万円 | 教育費+生活費(残り22年想定) |
| 子が中学・高校生 | 2,000万〜3,000万円 | 残り年数が短くなり減少 |
| 末子大学卒業後 | 500万〜1,000万円 | 葬儀費+老後の生活補填 |
必要保障額は子の年齢とともに毎年減っていきます。そのため、子育て期の保障は定期保険+収入保障保険で組むのが定石です。終身保険で同じ金額の保障を用意するより保険料が大幅に安く済みます。
収入保障保険が子育て期に強い理由
収入保障保険は「契約から年が経つほど受け取り総額が減る」仕組みです。たとえば月15万円×60歳までの契約を35歳で結ぶと、35歳時点の総受取額は4,500万円、45歳時点では2,700万円と、必要保障額の自然減と合致します。同じ保障期間の定期保険より保険料が3〜5割安くなるため、子育て期の主役商品になります。
新NISA積立の自己保険化
新NISAで月10万円の積立を続けている世帯は、5年後に600万円、10年後に1,200万円超(年5%運用想定)の残高が積み上がります。この残高は生命保険の保障の代替(自己保険)として機能します。
自己保険化のシミュレーション
| 積立期間 | 月10万円・年5%運用時の残高 | 必要保障額からの差し引き |
|---|---|---|
| 5年後 | 約680万円 | 収入保障保険を月3万円相当減額可能 |
| 10年後 | 約1,550万円 | 収入保障保険を月6万円相当減額可能 |
| 15年後 | 約2,680万円 | 収入保障保険を月10万円相当減額可能 |
新NISA残高が必要保障額に到達した時点で生命保険を減額または解約するという発想が「自己保険化」です。投資のリターンを生命保険料の節約に充てるイメージで、過度な投資推奨ではなく、無駄な保険料をカットする現実的なリスク管理として捉えるのが正しい姿勢です。
ただし、新NISAの残高は市況によって変動します。リーマンショック級の暴落時には30〜40%下落するため、必要保障額の80%を新NISAで賄うような攻め切った設計はおすすめしません。「実損は自分でカバーできる残高まで貯まれば、保険を段階的に減らす」という保守的な運用が現実的です。
収入保障保険・終身保険・定期保険の使い分け
必要保障額が算出できたら、どの保険商品で組むかを決めます。3商品の特徴を整理します。
| 商品 | 保障期間 | 受取総額 | 保険料 | 適した用途 |
|---|---|---|---|---|
| 収入保障保険 | 60〜65歳まで | 契約後に減少 | 最安 | 子育て期の主役 |
| 定期保険 | 10年・20年など | 一定 | 安い | 住宅ローンの非団信部分カバー |
| 終身保険 | 一生涯 | 一定 | 高い | 葬儀費(300万〜500万円程度) |
FinLaboが推奨する基本パターン
- 葬儀費・整理資金:終身保険300万〜500万円
- 子育て期の生活費:収入保障保険 月10万〜15万円×60歳まで
- 住宅ローン非団信部分:定期保険10〜15年・ローン残高相当
この3階建てを基本とし、新NISA残高の積み上がりに応じて収入保障保険を減額していくのが、保険料を最適化する王道アプローチです。
生命保険料控除の節税効果(副次的)
生命保険料控除は2012年以降の新制度で一般生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の3区分があり、所得税は各区分4万円・住民税は各区分2.8万円(合計上限:所得税12万円・住民税7万円)が上限です。
節税効果の目安
- 年収500万円(所得税率10%・住民税10%):年最大2.4万円の節税
- 年収800万円(所得税率20%・住民税10%):年最大3.6万円の節税
- 年収1,200万円(所得税率33%・住民税10%):年最大5.16万円の節税
生命保険料控除は副次的なメリットであり、節税のために保険に入るのは本末転倒です。必要保障額の算出が先、控除はおまけと位置づけるのが正しい順番です。
まとめ:必要保障額の決め方
生命保険の必要保障額は、世帯属性によって必要な金額が大きく異なります。本記事の整理を踏まえると、判断軸は次の3点に集約されます。
- 公的保障(遺族年金)の厚さを最初に把握する。会社員+子持ち世帯は年200万円超が支給され、思っているほど大きな保険は不要
- 共働きなら残されたパートナーの就労収入を計算に入れる。専業前提のシミュレーションでは必要保障額が過大評価される
- 新NISA残高は自己保険として保障の代替になる。残高が積み上がるたびに保険を減額するという発想を持つ
保険ショップの初期提案は「契約を取る」が前提のため、必要保障額が3,000万〜5,000万円と提示されがちです。世帯属性ごとに自分で計算し、過不足のない契約に絞り込むことが、生涯の家計を強くする近道です。
葵
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※ 本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。遺族年金の支給額・税制・保険商品の保障内容は変更される可能性があります。具体的な契約内容や見直しの判断は、ご自身のライフプランと照らし合わせて慎重に行ってください。


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