iDeCo(個人型確定拠出年金)について、積立フェーズの記事は数多くあります。ところが、いざ受け取る段になって何を選べばよいかをまとめた記事は驚くほど少ないのが現状です。受け取り方は「一時金」「年金」「併用」の3パターン。それぞれに退職所得控除と公的年金等控除のどちらを使うかが絡み合い、選び方ひとつで手取り総額に100万円超の差が出ることもあります。さらに会社の退職金との順序を巡る「19年ルール」「10年ルール」が、2026年改正でますます複雑になりました。FinLaboでは、50代以降の意思決定に直結する出口戦略を整理しました。

葵
iDeCoの受け取り方は3パターン——出口で手取りが100万円超変わる
iDeCoの受給開始年齢は60歳から75歳までの間で選べます。2022年改正で上限が70歳から75歳へ延長され、受取設計の自由度が一段と高まりました。受け取り方は次の3パターンに大別されます。
- ① 一時金受取:60〜75歳の間で全額を一括で受け取る。税法上は「退職所得」
- ② 年金受取:5年・10年・15年・20年など決められた期間にわたって分割で受け取る。税法上は「雑所得(公的年金等)」
- ③ 一時金+年金の併用:一部を一時金、残りを年金で受け取る。両方の税優遇を組み合わせる
iDeCoの場合、運営管理機関や受託金融機関ごとに選択肢の幅が異なります。一時金100%か年金100%しか選べないところもあれば、併用比率を細かく指定できるところもあるため、受給申請前に自分の金融機関の選択肢を確認しておくことが第一歩です。
どの組み合わせが有利かは「退職金の有無」と「他の所得」で決まる
iDeCo単体で考えれば、退職所得は1/2課税の優遇があるため一時金が圧倒的に有利になりがちです。しかし会社の退職金と重なると話が変わります。退職所得控除は一生で共有する控除枠であり、退職金とiDeCoの両方で奪い合いが発生するからです。一方、年金で受け取れば公的年金等控除を使えますが、国民年金・厚生年金との合算で控除上限に達してしまうと、その効果は薄まります。出口戦略の本質は「使える税優遇枠を、所得区分ごとに無駄なく食い尽くす設計」です。
退職所得控除と公的年金等控除——iDeCoの2つの税優遇を理解する
iDeCoの出口で使える税優遇は2つ。一時金で使う「退職所得控除」と、年金で使う「公的年金等控除」です。仕組みを順に見ていきます。
退職所得控除(一時金受取の場合)
iDeCoを一時金で受け取った場合、税法上の扱いは「退職所得」です。計算式は次の通り。
退職所得=(一時金 − 退職所得控除額)× 1/2
退職所得控除額はiDeCoの加入年数で決まります。会社の退職金と同じ計算式です。
| 加入・勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(年数 − 20年) |
たとえばiDeCoに20年加入していれば、800万円までの一時金は税金ゼロです。さらに控除を超えた部分も1/2課税のため、他の所得区分と比べて圧倒的に税制が有利です。
公的年金等控除(年金受取の場合)
iDeCoを年金で受け取った場合は「雑所得(公的年金等)」となり、公的年金等控除が適用されます。国民年金・厚生年金などの公的年金と合算した上で、年齢と合計収入に応じた控除額が差し引かれます。
| 受給時の年齢 | 公的年金等の合計収入 | 控除額(合計所得1,000万円以下) |
|---|---|---|
| 65歳未満 | 130万円以下 | 60万円 |
| 130万円超〜410万円以下 | 収入 × 25% + 27.5万円 | |
| 410万円超〜770万円以下 | 収入 × 15% + 68.5万円 | |
| 65歳以上 | 330万円以下 | 110万円 |
| 330万円超〜410万円以下 | 収入 × 25% + 27.5万円 | |
| 410万円超〜770万円以下 | 収入 × 15% + 68.5万円 |
65歳以上であれば、公的年金とiDeCo年金の合計が330万円以下まで110万円控除されます。逆にいえば、公的年金だけで330万円を超える人がiDeCoを年金で受け取ると、控除はほぼ満額消化されているため、ほぼ全額が課税対象になります。年金受取の有利さは「公的年金の額」次第で大きくぶれるのが特徴です。
19年ルールと10年ルール——退職金とiDeCoの順序問題
iDeCoを一時金で受け取る場合、最大の論点は会社の退職金との順序です。退職所得控除は「同じ勤続・加入期間を二度カウントしない」ための調整規定があり、受取順と間隔によって控除が削られる仕組みになっています。
5年ルールから10年ルールへ——2026年改正の核心
2026年1月1日以降に退職一時金を受け取る人から、調整ルールが次のように変更されました。
| 受取順 | 改正前(〜2025年12月) | 改正後(2026年1月〜) |
|---|---|---|
| 先 iDeCo → 後 退職金 | 前年以前4年内に重複なら調整(5年ルール) | 前年以前9年内に重複なら調整(10年ルール) |
| 先 退職金 → 後 iDeCo | 前年以前14年内に重複なら調整(19年ルール) | 変更なし(19年ルールのまま) |
つまり「iDeCoを先に一時金で受け取り、退職所得控除を二重取りに行く」戦略を成立させるには、iDeCoと退職金の間に10年以上のブランクが必要になったということです。60歳でiDeCoを受け取り、70歳以降で退職金を受け取る——再雇用や役員継続で受取時期をずらせる人なら成立しますが、多くの会社員にとっては実行が難しい設計になりました。
19年ルール(先退職金→後iDeCo)の使い方
逆に、先に退職金を受け取り、後でiDeCoを受け取る場合は「19年ルール」が適用されます。退職金受取後14年経過していれば調整なしですが、それまでにiDeCoを受け取るとiDeCo側の退職所得控除が削られます。重複期間が完全(iDeCo加入20年すべてが勤続35年に内包される、など)であれば、iDeCo側の控除はほぼゼロになることも珍しくありません。
65歳で退職金を受け取り、その5〜10年後にiDeCoを受け取るパターンは多いと思いますが、この場合iDeCoは退職所得控除が削られた状態で課税されます。iDeCoの受取総額が小さく、退職所得が控除残でカバーされるなら問題ありませんが、iDeCoが1,000万円超の人は、年金受取に切り替えた方が手取りが大きくなるケースがあります。

ひより
ケース別シミュレーション——どのパターンが手取り最大か
モデルケースで3パターンの手取り差を概算します。iDeCo一時金1,500万円・加入20年、65歳で年金受給開始という共通前提のもと、退職金の有無で2グループに分けます。
| 受取パターン | 退職金 2,000万円あり(勤続35年) | 退職金なし(自営業・フリーランス) |
|---|---|---|
| ① 一時金100%(同一年に退職金と合算) | 課税退職所得 825万円 所得税・住民税 約180万円 | 課税退職所得 350万円 所得税・住民税 約60万円 |
| ② 年金100%(10年分割・公的年金200万円と合算) | 毎年の雑所得 約240万円 累計税・社保 約300万円 | 毎年の雑所得 約240万円 累計税・社保 約230万円 |
| ③ 併用(一時金800万円+年金10年) | 退職所得 0円+年金課税減 累計税・社保 約140万円 | 退職所得 0円+年金課税減 累計税・社保 約50万円 |
※税額は概算。所得税率・住民税率・国民健康保険料・介護保険料は居住自治体と他の所得で変動します。あくまで方向性の把握用とお考えください。
表からわかる傾向は次の通りです。
- 退職金がある人:併用パターンが最も手取りが大きい傾向。一時金部分は退職所得控除の残り枠を活用し、超過分は年金で公的年金等控除を狙う
- 退職金がない自営業・フリーランス:iDeCoだけで退職所得控除を満額使えるため、一時金100%が有利になりやすい。年金部分は公的年金が少なめなら追加で控除を使える
- 年金100%は社会保険料の負担増:退職後の国民健康保険料・介護保険料は雑所得に応じて上がるため、税だけでなく社保コストも含めて試算する必要がある
実務的な出口設計の判断軸
3パターンの比較を踏まえ、自分のケースに当てはめて考える際の判断軸を整理します。
退職金がある会社員の場合
退職所得控除は退職金で使い切ってしまう人が多数派です。iDeCoは10年ルールが現実的に成立しにくいため、退職金で控除を使い切る前提で、iDeCoは年金または併用で受け取るのが定石になりつつあります。とくに退職金が1,500万円超の人は、控除残でiDeCo一時金をカバーできないので、iDeCoは年金受取が無難です。
退職金がない自営業・フリーランスの場合
退職所得控除はiDeCoのために丸々取っておけます。加入年数が長いほど控除枠が大きくなるため、20年以上加入しているなら一時金で受け取る方が手取りは大きくなる傾向です。ただし、iDeCoが1,500万円を超えて控除残では足りない場合は、超過分を年金受取に回す併用パターンが選択肢に入ります。
政府税調の動向——10年ルールが19年ルールへ統合される可能性
政府税制調査会では、退職所得控除の「働き方の中立化」をテーマに、10年ルールを19年ルールに統合する案が議論されています。実現すれば、iDeCo一時金を先に受け取る戦略は事実上封じられ、退職金とiDeCoの順序ではなく金額配分で勝負する設計が主流になります。改正は早ければ2027年度税制改正に盛り込まれる可能性があり、50代の方は今後の議論を注視する必要があります。
まとめ——出口戦略は受給申請の1年前から準備する
iDeCoの受け取り方は、受給開始の1〜2年前から準備しておきたい意思決定です。退職金の額・退職時期・iDeCo残高・公的年金見込額の4つを揃えて、税理士やFPに相談すれば、自分のケースに合った受取順序が見えてきます。記事中のシミュレーションは方向性の把握用にとどめ、最終判断は個別シミュレーションで詰めることをお勧めします。FinLaboでは退職金とiDeCoの順序を扱った関連記事も公開しています。

葵
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※ 本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。制度・税制は変更される可能性があります。実際の受取設計は個別の状況によって最適解が異なりますので、税理士・FP等の専門家にご相談ください。


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