2026年1月の税制改正で、iDeCo(個人型確定拠出年金)と会社の退職金の受け取り順序を巡るルールが大きく変わりました。これまで「iDeCoを先に受け取って5年あければ退職所得控除がフルで使える」とされてきた『5年ルール』が、『10年ルール』へと拡張されたのです。FP本やネット記事の多くは旧ルール前提で書かれており、定年退職を5年〜10年以内に控える人の意思決定にそのまま影響します。FinLaboでは、改正の中身・受取戦略・モデルケースでの手取り差を整理しました。

葵
結論:受け取り順を間違えると数十万〜数百万円の差
2026年1月1日以降に退職金(退職一時金)を受け取る人から、退職所得控除の調整ルールが変更されました。iDeCoや企業型DCの一時金を先に受け取った場合、その後10年以上空けないと、後で受け取る会社退職金側の退職所得控除が大幅に削られます。
これまでは「5年ルール」と呼ばれ、iDeCoを先に一時金で受け取って5年経過すれば、退職金側の控除をフル活用できました。一方、先に会社の退職金を受け取ってからiDeCoを後で受け取る場合は「19年ルール」が適用され、こちらは今回の改正の対象外です。つまり、勤め先の退職金の受取時期を変えにくい人ほど、iDeCo側の受取設計が重要になるということです。
2026年改正のポイント——「5年→10年」の何が変わったのか
退職所得控除には「同じ勤続・加入期間を二度カウントしない」ための調整規定があります。複数回退職一時金を受け取る人が、勤続年数を重複させて控除をフル活用できないようにする仕組みです。この調整規定の対象期間が、2026年1月1日以後の退職金から次のように変わりました。
| 受取順 | 改正前(〜2025年12月) | 改正後(2026年1月〜) |
|---|---|---|
| 先iDeCo → 後 退職金 | 前年以前4年内に重複なら調整(5年ルール) | 前年以前9年内に重複なら調整(10年ルール) |
| 先 退職金 → 後iDeCo | 前年以前14年内に重複なら調整(19年ルール) | 変更なし(19年ルールのまま) |
ポイントは次の2点に集約されます。
- 変更されたのは「先iDeCo → 後 退職金」のパターンのみ
- 「先 退職金 → 後iDeCo」のパターンは従来通り19年ルールが継続
つまり、定年退職前にiDeCoを早めに一時金で受け取り、退職所得控除を二重に取りに行く戦略は、これまで以上に長い待機期間が必要になりました。65歳で退職金を受け取る予定の会社員がフル控除を狙うなら、iDeCoの一時金は55歳以前に受け取り終えている必要があります。ところがiDeCoは原則60歳以降の受取となるため、現実的には不可能になったといえます。
退職所得控除の計算式をおさらい
戦略の比較に入る前に、退職所得控除の基本式を確認します。
| 勤続・加入年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
退職所得は、退職金から退職所得控除を差し引いた残額の2分の1に課税される、極めて優遇された所得区分です。控除をフルに使えるかどうかが手取りを大きく左右します。
3つの受取戦略とモデルケースの手取り差
想定モデルを使って、現実的な3つの受取戦略を比較します。
【モデル前提】
・勤続35年(同一会社)
・iDeCo加入20年
・会社の退職一時金:2,000万円
・iDeCo一時金:1,500万円
・iDeCo加入期間と勤続期間は完全に重複
戦略A:先iDeCo(60歳)→ 10年以上空けて退職金(70歳以降)
iDeCoを60歳で一時金で受取、その後10年以上空けてから退職金を受け取るパターンです。改正後の10年ルールを満たすため、退職金側の退職所得控除をフルに使えます。
- iDeCo:控除800万円(加入20年)→ 課税退職所得(1,500 − 800)× 1/2 = 350万円
- 退職金:控除1,850万円(勤続35年)→ 課税退職所得(2,000 − 1,850)× 1/2 = 75万円
- 合計課税退職所得:425万円
このパターンの難点は、定年退職を70歳以降まで遅らせるか、再雇用で給与を抑えながら70歳以降に退職金を受け取る設計が必要なこと。多くの会社員にとっては実行可能性が低いといえます。
戦略B:先 退職金(65歳)→ 5年空けてiDeCo(70歳)
先に65歳で会社の退職金を受け取り、5年待ってiDeCoを一時金で受け取るパターンです。逆順なので19年ルールの世界。退職金受取後14年経過していれば調整なしですが、5年では調整対象になります。
ただし、この場合に調整されるのはiDeCo側の退職所得控除です。iDeCoの加入期間のうち、退職金の勤続期間と重複する部分が控除から除外されます。重複が完全(20年すべて)の場合、iDeCoの退職所得控除は実質ゼロになる可能性があります。
- 退職金:控除1,850万円(勤続35年)→ 課税退職所得(2,000 − 1,850)× 1/2 = 75万円
- iDeCo:控除大幅減(加入期間と勤続期間が重複)→ 課税退職所得が増加
- iDeCo側で大きな課税が発生
逆順でも19年(=14年待機)を満たさないと調整されるため、「先退職金 → すぐiDeCo」も最適解とは限りません。
戦略C:同一年に受け取って退職所得控除を合算
退職金とiDeCoを同じ年に一時金で受け取り、退職所得控除を合算するパターンです。複数の退職一時金を同年に受け取った場合、勤続・加入期間の長い方の年数で控除を計算し、退職金は合算して課税します。
- 合算退職金:3,500万円(2,000万円 + 1,500万円)
- 控除:1,850万円(勤続35年で計算、iDeCo20年は包含)
- 課税退職所得:(3,500 − 1,850)× 1/2 = 825万円
戦略Aの425万円と比較すると、合算課税は400万円ほど課税退職所得が増えます。所得税・住民税合計でおおよそ80万〜120万円程度の手取り差が生じる計算です(税率は所得全体で変動するため、個別シミュレーションが必要)。
とはいえ、戦略Aは70歳以降まで退職金を遅らせる必要があり、実行可能性は限定的。多くの人にとって現実的な比較は「戦略B(先退職金 → 後iDeCo)と戦略C(同一年合算)のどちらが得か」になります。

ひより
よくある誤解Q&A
Q1:DB(確定給付企業年金)と退職一時金は別カウントになる?
DB(確定給付企業年金)から一時金で受け取る部分も、退職所得として退職一時金と合算されます。会社退職金とDB一時金を同年に受け取った場合は、勤続期間を通算して退職所得控除を計算するのが基本。別カウントで二重に控除を取れるわけではありません。
Q2:iDeCoを年金(分割)で受け取れば10年ルールは関係ない?
そのとおりです。iDeCoを年金形式(5〜20年の分割)で受け取る場合、退職所得ではなく雑所得(公的年金等)となり、退職所得控除の調整は無関係になります。代わりに公的年金等控除の枠を消費するため、公的年金(国民年金・厚生年金)との合計で課税ラインを意識する必要があります。
Q3:iDeCo一時金は分割で2回受け取れる?
iDeCoの一時金受取は1回限り。2回に分けて受け取ることはできません。一時金と年金の併給(一部を一時金、残りを年金)は、商品(運営管理機関)によって可否が分かれます。検討する場合は加入先の運営管理機関に併給可否を確認してください。
Q4:勤続年数とiDeCo加入年数の「重複」はどう判定する?
同一の暦年に「勤続している期間」と「iDeCoに加入していた期間」が重なっていれば重複とみなされます。重複期間の年数は、退職所得控除の調整計算で控除額から差し引かれます。具体的な判定は退職金規程と加入記録を突き合わせる必要があり、税理士・FPに依頼するのが確実です。
2026年12月のiDeCo掛金上限引き上げとの関係
2026年12月から、iDeCoの掛金上限が大幅に引き上げられます(会社員の上限月額2.3万円→6.2万円など、属性により変動)。これにより、定年までの残り期間が短い人でも、iDeCoの拠出額を一気に増やせるようになります。
つまり、これからiDeCo加入期間と拠出額が一気に増えるタイミングで、出口(受取設計)の難易度も同時に上がっているのが現状です。掛金を増やす前に、受取シナリオを先にシミュレーションしておくことが安全策といえるでしょう。
まとめ:「先退職金 → 後iDeCo」または「同一年合算」が現実解
2026年改正後の現実的な選択肢を整理します。
- 定年70歳以降が確実な人:戦略A(先iDeCo → 10年待機 → 退職金)でフル控除を取りに行く
- 65歳前後で退職予定の人:戦略Bか戦略Cを比較。重複期間が長い場合は戦略C(同一年合算)の方が手取りで有利になりがち
- iDeCoを年金受取にする人:退職所得控除の調整は無関係。公的年金等控除の枠管理に切り替える
受取順・受取年・受取方法の3軸で組み合わせは多岐に渡り、手取り差は条件次第で数十万〜百万円単位になります。定年5年前くらいから税理士・FPに相談し、受取シミュレーションを複数パターン作っておくのが安全です。

葵
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※本記事は2026年5月時点の情報をもとに作成しています。退職所得控除の調整計算は個別事情(重複期間・退職金規程・iDeCo加入歴)で結論が変わります。実際の意思決定は必ず税理士・FP等の専門家に個別シミュレーションを依頼してください。本記事は一般的な情報提供であり、特定の受取方法を推奨するものではありません。


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