ひより
葵
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令和8年度税制改正大綱で、青色申告特別控除の上限が現行の最大65万円から最大75万円へ引き上げられました。施行は2027年分(令和9年分)所得税、つまり2028年3月の確定申告から。一見「フリーランス全員が10万円得する」改正に見えますが、現行の65万円控除を取っていた人がそのまま75万円に自動アップグレードされるわけではありません。
同じ大綱の中で、簡易簿記の青色申告者は前々年の事業所得・不動産所得の収入金額が1,000万円を超えると、青色申告特別控除が0円になるという変更も盛り込まれました。プラスとマイナスが同居した「整理型」の改正です。本記事では、税理士視点で要件・落とし穴・準備チェックリストを正確に整理します。
結論:65万→75万へ。要件は「e-Tax+優良な電子帳簿」
まず全体像を、現行制度との対比で押さえます。
| 区分 | 控除額 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 10万円控除 | 10万円 | 青色申告承認+簡易簿記 |
| 55万円控除 | 55万円 | 複式簿記+貸借対照表+紙申告 |
| 65万円控除(現行) | 65万円 | 55万円要件+e-Tax または 電子帳簿保存 |
| 75万円控除(2027年分〜) | 75万円 | 55万円要件+e-Tax+優良な電子帳簿の備付け・保存 |
ポイントは2つ。①e-Tax単独では足りないこと、②「優良な電子帳簿」というハードルが追加されたことです。現行の65万円控除は「e-Tax または 電子帳簿保存」のどちらか一方でOKでしたが、75万円コースは両方必須。さらに電子帳簿は普通の電帳法対応では足りず、「優良」要件をクリアする必要があります。
「優良な電子帳簿」って何?普通の電子帳簿との違い
電子帳簿保存法には「最低要件(一般電子帳簿)」と「優良要件」の2段階があります。75万円控除で求められるのは後者の優良な電子帳簿。一般電子帳簿よりも要件が厳しく、ざっくり言うと「あとから訂正したことが追える」「他の帳簿と紐づいている」「検索性が高い」帳簿のことです。
- 訂正・削除履歴の保存:仕訳を直したときの履歴がシステムに残ること
- 追加履歴の保存:あとから付け加えた記録が分かること
- 各帳簿の相互関連性の確認:仕訳帳・総勘定元帳・補助簿が紐づいて参照できること
- システム関係書類の備付け:使っている会計ソフトの仕様書類を保管していること
- 検索機能:日付・取引先・金額の3項目で検索でき、範囲指定や複数条件の組み合わせもできること
個人で手作りExcel管理をしている人にとって、これは事実上の引導。クラウド会計ソフト(freee/マネーフォワード/弥生など)の利用が現実解になります。各社「優良電子帳簿対応」を謳い始めるはずなので、契約プランの要件確認が今後の論点。
ひより
落とし穴:簡易簿記+前々年収入1,000万超は控除ゼロ
ここからが本題。同じ改正で、簡易簿記で記帳している青色申告者のうち、前々年の事業所得または不動産所得の収入金額が1,000万円を超える人は、2027年分から青色申告特別控除が0円になる方向です。
現行は簡易簿記でも10万円控除が取れていました。これが規模の大きい事業者には認められなくなる、という整理。改正の趣旨は「収入が一定規模に達したら、複式簿記による正確な記帳をしてください」というシンプルなメッセージで、税務行政側の青色申告制度のクオリティ底上げ施策です。
| 前々年の収入金額 | 記帳方式 | 2027年分以降の控除 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 簡易簿記 | 10万円(現行どおり) |
| 1,000万円超 | 簡易簿記 | 0円 |
| 不問 | 複式簿記+紙申告 | 55万円 |
| 不問 | 複式簿記+e-Tax+電子帳簿(一般) | 65万円 |
| 不問 | 複式簿記+e-Tax+優良電子帳簿 | 75万円 |
「前々年」基準なので、2027年分の判定は2025年(令和7年)の収入を見ます。すでに過去の数字。今からどう動いても2027年分の判定は動かせないので、該当しそうな人は2026年中に複式簿記体制への移行を完了させるしかありません。
収入金額1,000万円は「売上ベース」なので、利益が薄い業種(仕入れの多い小売・卸売・建設など)でも該当しやすい点に注意。フリーランスでも年商1,000万円超は珍しくなく、現状簡易簿記で済ませている人にとっては最大級のインパクトです。
10万円控除アップで実際にいくら節税できる?所得帯別シミュレーション
「+10万円の控除」は、所得税+住民税の両方に効きます。ただし税率次第で実額はけっこう変わるので、所得帯別に試算しておきます。
| 課税所得 | 所得税率 | +10万円控除の節税額(所得税+住民税10%) |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 約15,000円 |
| 195万〜330万円 | 10% | 約20,000円 |
| 330万〜695万円 | 20% | 約30,000円 |
| 695万〜900万円 | 23% | 約33,000円 |
| 900万〜1,800万円 | 33% | 約43,000円 |
※復興特別所得税・防衛特別所得税・住民税の調整控除等を簡略化した目安。
クラウド会計ソフトの年額が概ね2〜3万円なので、課税所得が330万円を超えていれば「優良電子帳簿対応プラン」のコスト分は十分回収できる計算。逆に課税所得200万円前後の人にとっては「ソフト代と相殺で実質ほぼゼロ」になる可能性もあります。「全員が得する改正」ではなく、規模に応じた損益分岐がある改正と捉えるのが正確です。
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2027年分に間に合わせる「逆算スケジュール」
2027年分の確定申告で75万円控除を取る場合、判定対象は2027年1月〜12月の取引。逆算すると、2026年中に体制を完成させて、2027年1月から正しい運用で帳簿をつけ始めるのが安全ルートです。
- 2026年内:会計ソフトを「優良電子帳簿対応」プランに切り替え。複式簿記体制に未移行ならここで移行
- 2026年内:取引先の請求書・領収書も電子保存ルールに沿って整える(電帳法・スキャナ保存)
- 2027年1月〜:新ルールで日々の記帳。仕訳の訂正・削除はシステム上の操作で履歴を残す
- 2027年12月末:青色申告決算書の準備。電子帳簿の検索機能・相互関連性が動作することを確認
- 2028年2月〜3月:e-Taxで2027年分を申告(マイナンバーカード方式 or ID・パスワード方式)
特に「簡易簿記+年商1,000万円前後」のラインにいる人は、優先度の高い順に:①複式簿記化/②会計ソフトの優良電子帳簿対応プランへ/③e-Tax体制の整備、を2026年中に片付けてください。2027年が来てから動き出すと、控除0円のまま1年が終わります。
AI×会計の波と組み合わせると、記帳負荷は劇的に下がる
「優良電子帳簿対応」と聞くと身構える人が多いですが、2026年は同時にAI記帳ツールが本格普及するタイミングでもあります。Claude CodeのMCP連携、Claude Cowork、各社AI仕訳機能など、領収書スキャン→仕訳起票→帳簿登録までの工数が劇的に下がっています。
FinLaboで日常的に検証している範囲では、AIに月次の通帳明細・カード明細・領収書の山を渡すと、80〜90%の仕訳は自動で当たります。残り10〜20%を税理士または事業者本人がレビューする運用にすれば、優良電子帳簿の運用負荷は現行の簡易簿記とほとんど変わらないレベルにまで圧縮できます。
つまり今回の改正は、見方を変えると「AI×会計の運用に切り替える絶好の理由」。+10万円控除のための作業負担と思うと億劫ですが、AI記帳のついでにクリアできるラインなら、一気にやってしまった方がトクです。
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まとめ:75万円控除は「電子帳簿のクオリティ」と「規模」で勝負が決まる
- 青色申告特別控除は2027年分(令和9年分)から最大75万円に拡大
- 75万円コースの要件は複式簿記+e-Tax+優良な電子帳簿の3点セット
- 「優良な電子帳簿」は訂正履歴・追加履歴・相互関連性・検索機能が満たされた帳簿。クラウド会計ソフト前提
- 同改正で簡易簿記+前々年収入1,000万円超は控除0円に。年商1,000万超の事業者は2026年中に複式簿記化が必須
- +10万円控除の節税効果は所得帯次第で年1.5万〜4.3万円。クラウド会計ソフト代との損益分岐を確認
- AI記帳との組み合わせで運用負荷は劇的に下がる。改正は「AI×会計に切り替える理由」として捉えるのが得策
今回の改正は「+10万円もらえる」だけの単純な話ではなく、規模が大きい事業者にとっては「複式簿記化を促す圧力」、規模が小さい事業者にとっては「ソフト代と引き換えのアップサイド選択」という、複層的な構造になっています。2026年は青色申告体制の見直しに最適なタイミング。今のうちに自分のポジションを確認しておきましょう。
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※本記事は令和8年度税制改正大綱に基づく一般的な解説です。最終的な法令施行内容・運用通達によって細部が変わる可能性があります。個別ケースの判断は所管税務署または税理士にご相談ください。


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