日本学生支援機構(JASSO)の奨学金利用者は、大学生のおよそ2人に1人。卒業後の15〜20年に及ぶ返済が、結婚・住宅取得・出産が重なる20〜30代の家計を直撃します。一方で2024年から新NISAが恒久化され、「返済しながら積立」も現実的な選択肢になりました。FinLaboでは、奨学金を抱える共働き世帯が、繰上返済・新NISA・減額返還の3つをどう優先するか、利率と運用利回りの差で判断する軸を整理しました。
葵
ひより
奨学金返済と新NISA、まずは利率と利回りの差で考える
奨学金返済中の家計では、限られた資金を「繰上返済に回すか」「新NISAに回すか」で悩む場面が多くなります。判断の基本軸は、奨学金の利率と、新NISAで想定する運用利回りの差。利率が高ければ繰上返済が有利、低ければ運用に回すほうが期待値で勝ちやすい、という整理になります。
JASSO第一種(無利子)と第二種(利息付)の優先順位
JASSOの貸与型奨学金は、第一種が無利子、第二種が利息付の2種類です。第一種は利率0%。急いで繰上返済しても利息は1円も浮かないため、手元の現金を温存して生活防衛資金や新NISAへの積立に充てるほうが、長期で家計に厚みが出ます。
一方の第二種は、貸与終了時に「利率固定方式」または「利率見直し方式」を選んだうえで利率が確定します。2026年時点の確定利率は、貸与時期や方式によって個別に異なるため、JASSOのスカラネット・パーソナル(マイページ)に記載されている自分の確定利率を必ず確認しましょう。返還証書や毎年4月送付の返還誓約書控えにも記載があります。
新NISAつみたて投資枠の標準想定利回り
本記事では、新NISAつみたて投資枠の長期想定利回りを年4%で統一します。これは全世界株式インデックスや先進国株式インデックスを20年以上保有した場合の保守的な目安で、過去実績から控えめに置いた数字です。実際の運用は変動し、元本割れの可能性もあります。
判断の基本式は次のとおりです。
- 奨学金利率 < 4%:運用に回すほうが期待値で有利(第一種は常にこのライン)
- 奨学金利率 ≧ 4%:繰上返済が有利(現行JASSO第二種ではまずあり得ない水準)
数字だけ見ると「全額を新NISAに回せばいい」となりそうですが、ここに精神的な負担という別軸が乗ります。返済が長く続くストレスは、たとえ期待値で運用が勝っても、家計の意思決定を歪めることがあります。後述する「希望ライン」で、両立の道筋を必ず作っておくのがFinLaboの推奨です。
家計が苦しいときに使える「減額返還」と「所得連動返還」
収入が想定より伸びない、住宅ローンと教育費が重なって月の返済が苦しい——そんなときに先に検討すべきは、繰上返済でも新NISAでもなく、減額返還・返還期限猶予、そして所得連動返還の制度です。返済を止める前に、返済の形を整え直す選択肢が用意されています。
減額返還の条件と月額イメージ
減額返還は、毎月の返還額を「2分の1」または「3分の1」に減らし、その分返還期間を2倍または3倍に延ばす仕組みです。返還総額は変わらず、利息が追加で増えることもありません。利用には申請が必要で、災害・傷病・経済困難・失業など所定の事由に該当する人が対象です。1回の願出で12か月、最長15年まで利用できます。
たとえば、月額1万5,000円の返還を3分の1の5,000円に減額すれば、月の家計に1万円の余裕が生まれます。その1万円を生活防衛資金や新NISAの最低積立に振り向ける、という現実的な選択ができます。返還を続けつつ、家計の呼吸を確保するための制度です。
所得連動返還方式(ICR)の所得ライン
第一種奨学金には、所得連動返還方式(Income Contingent Repayment:ICR)が用意されています。前年の課税対象所得に応じて当年の返還月額が決まる仕組みで、課税対象所得の9%を12で割った金額が毎月の返還額となります。所得が低い年は返還も少なく、収入の谷で家計が崩れにくい設計です。
最低返還月額は2,000円。失業や転職、育休復帰後の時短勤務など、収入が一時的に下がる時期に効きます。ただしICRが選べるのは第一種のみで、第二種は対象外。第二種で家計が厳しい場合は、減額返還または返還期限猶予で対応する形になります。
繰上返済の損益分岐|年4%運用との交差点はどこか
第二種の繰上返済は、残期間と確定利率の組み合わせで損益分岐が変わります。FinLaboでは、奨学金利率と新NISA想定利回り(年4%)の差から、繰上返済が「家計の納得感」と「期待値」のバランスを取れる目安を整理しました。
第二種の金利別・繰上返済の判断早見表
| 第二種の確定利率 | 想定利回り(年4%)との差 | 家計上の判断目安 |
|---|---|---|
| 0.3%以下 | 差が大きい(運用優位) | 新NISAつみたて投資枠への振替を優先 |
| 0.3〜1.0% | 差はやや大きい | 新NISA積立を継続しつつ、ボーナス時に部分的な繰上返済を併用 |
| 1.0%超 | 差は縮む | 住宅ローン控除終了後、繰上返済の比重を上げる選択肢 |
純粋な利回り差だけで見れば、現行のJASSO第二種は新NISAの想定利回りに大きく届きません。それでも繰上返済を選ぶ理由としては、「返済期間を短くして将来のキャッシュフローを軽くしたい」「精神的な負担を減らしたい」という家計の納得感が大きいケースが中心です。期待値と納得感、両方の軸で判断するのが現実的です。
住宅ローン控除との同時並走時の優先順位(ペアローン・連帯債務)
住宅ローン控除を受けている期間中は、奨学金の繰上返済の優先順位を下げる選択が現実的です。住宅ローン控除は年末残高×0.7%が所得税・住民税から控除される仕組みのため、ローン残高を減らすと控除額も減ります。控除期間内に繰上返済しても、節税メリットを自ら削ることになりかねません。
共働き世帯でペアローン・連帯債務を組んでいる場合は、それぞれの控除枠を最大化する設計が先。奨学金の繰上返済は、住宅ローン控除13年(または10年)の終了後に集中させるほうが、家計全体の手取りは厚くなります。
葵
親が代わりに繰上返済する時の贈与税ライン
親が子の奨学金を肩代わりして繰上返済するケースも増えています。ここで必ず触れておきたいのが、贈与税の論点です。「親が払ってくれるから安心」と進めると、思わぬ税負担が発生することがあります。
年110万円の基礎控除との合算
贈与税は、もらった人1人につき1年(暦年)に110万円までは非課税(基礎控除)。親が子の奨学金を一括で肩代わりする金額がこのラインを超えると、超過部分に贈与税がかかります。たとえば、残債200万円を親が一括で肩代わりすると、110万円を超える90万円が贈与税の課税対象となり、一般税率10%でおよそ9万円の負担が発生します。
一括ではなく毎年110万円以内で分割して肩代わりする方法もありますが、「定期贈与」とみなされると合計額に贈与税が課される可能性があります。各年に贈与契約書を作成する・送金記録を残す・金額や時期をあえて変動させる、といった実態の積み重ねが必要です。
マイホーム取得援助との重ねがけ注意点
同じ年に親からマイホーム取得援助(住宅取得等資金の非課税特例)を受けている場合、住宅取得等資金の特例枠は奨学金の肩代わり分と合算する必要はありません。非課税枠が別建てだからです。ただし、奨学金の肩代わり分自体は通常の暦年贈与の枠内で扱うため、110万円ラインは独立で意識する必要があります。
判断に迷うときは、税務署または税理士に贈与の事実を整理して相談するのが安全です。額が大きい年は、暦年贈与をやめて相続時精算課税制度に切り替える選択肢も検討できます。
月3万円を捻出する具体プランの作り方
奨学金返済中でも、家計の優先順位を整理すれば月3万円の自由枠を作ることはできます。FinLaboの推奨ステップは次のとおりです。
返済継続中でも整え直せる希望ライン
- 生活防衛資金を6か月分確保する:奨学金返済は最優先で口座から引き落とされるため、収入断絶リスクに備える。普通預金で十分。
- 新NISAつみたて投資枠を月5,000円〜1万円で開始する:金額は無理のない範囲で。継続できるラインから始める。
- ふるさと納税の枠を使い切る:実質負担2,000円で返礼品を受け取り、年2〜4万円相当の家計補助に変える。
- iDeCoは住宅ローン控除終了後に検討する:年末調整・確定申告での税効果は大きいが、60歳まで引き出せない制約を踏まえて優先順位を下げる。
- ボーナス時期に減額返還・繰上返済を見直す:6月・12月の収入増加月にまとめて検討する。
ボーナス時期に見直すチェックリスト
- スカラネット・パーソナルで残債と確定利率を確認したか
- 住宅ローン控除の残り年数と、繰上返済による控除減を比較したか
- 新NISAつみたて投資枠の年間使用率を確認したか(年間120万円が満額)
- 減額返還・所得連動返還の制度に該当する事情はないか
- 親からの援助がある場合、年110万円ラインを超えていないか
奨学金返済は長期戦です。途中で整え直せる制度を知っているかどうかで、家計の柔軟性は大きく変わります。利率と利回りの差で判断する一方、住宅ローン控除や贈与税ラインといった他制度との接続も合わせて見直すと、月3万円の自由枠は十分に視野に入ってきます。
まとめ|整え直せる家計に
奨学金返済と新NISAの両立は、利率と運用利回りの差で機械的に判断するだけでなく、住宅ローン控除との同時並走、減額返還・所得連動返還の活用、親が肩代わりする際の贈与税ラインといった複数の論点を踏まえて設計するのが現実的です。返済を続けながらでも、家計を整え直す制度は数多く用意されています。FinLaboは、毎月の返済が続く家計でも、整え直せる希望ラインを必ず残せると考えています。
ひより
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※ 本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。制度・税制・市況は変更される可能性があります。投資判断は読者自身の責任で行ってください。


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