2025年10月、雇用保険法の改正で新しい給付「教育訓練休暇給付金」が始まりました。30日以上の無給休暇でリスキリングをする会社員に、休暇開始前の賃金の45〜80%を最大150日分支給する制度です。既存の「教育訓練給付金」(講座費用の20〜80%還付)とは仕組みがまったく違い、しかも併用できます。本記事ではFinLaboの税理士・FPチームが、両制度の違い・受給要件・併用時のシミュレーション・申請手順までを整理します。
葵
教育訓練休暇給付金とは|2025年10月新設の「学び直し休暇」サポート
教育訓練休暇給付金は、雇用保険の改正によって2025年10月1日から始まった新しい給付金です。位置づけは「失業給付(基本手当)と同等の生活費補助」。会社を辞めるのではなく、就業を続けたまま長期の無給休暇に入り、その間の生活費を雇用保険が肩代わりするという発想の制度です。
制度の骨格:給付率45〜80%、最大150日
給付額は「休暇開始前6か月に支払われた賃金合計÷180」で算出した賃金日額に、45〜80%の給付率をかけて1日あたりの給付額を決め、所定給付日数分が支給されます。給付率は賃金が低いほど高く、賃金が高いほど低くなる累進設計(基本手当と同じロジック)です。所定給付日数は雇用保険の被保険者期間に応じて以下のように決まります。
| 被保険者期間 | 所定給付日数 | 受給期間の目安 |
|---|---|---|
| 5年以上10年未満 | 90日 | 約3か月分 |
| 10年以上20年未満 | 120日 | 約4か月分 |
| 20年以上 | 150日 | 約5か月分 |
新卒で1社目という人より、転職をはさみながら10年以上雇用保険に入ってきた30〜40代のほうが、給付日数の面では恩恵が大きい設計です。
想定される使い方:半年MBA・専門大学院・海外留学
これまでも「会社を辞めて大学院に行く」「思い切ってMBAに挑戦する」という選択肢はありましたが、最大のハードルは無収入期間の生活費でした。教育訓練休暇給付金が想定しているのは、まさにそのギャップの穴埋め。例として次のようなケースが該当します。
- 国内ビジネススクールに6か月通うために無給休職を取る
- 専門職大学院の2年コースの前半1学期を集中受講するため4か月休む
- 厚生労働大臣指定の専門実践教育訓練講座を平日昼に受けるため3〜5か月休む
- 海外短期留学(語学+専門スキル)に挑戦するため4〜5か月休む
会社に在籍したままなので健康保険も厚生年金も継続し、キャリアの断絶を最小化できる点が、退職して給付を受ける従来パターンとの大きな違いです。
既存の「教育訓練給付金」とどう違う?併用できる?
名前が似ているため混同されがちですが、教育訓練休暇給付金と既存の教育訓練給付金はカバーするコストの種類がまったく違います。一方は休暇中の生活費、もう一方は受講料そのもの。両者は同時に受給できる「補完関係」の制度です。
一言でいうと「生活費補助 vs 講座費用補助」
整理すると下表のとおりです。給付の出どころも申請先も別系統なので、片方を受けると片方が削られる、といったことはありません。
| 項目 | 教育訓練休暇給付金(新) | 教育訓練給付金(既存) |
|---|---|---|
| カバー対象 | 休暇中の生活費 | 講座の受講料 |
| 給付率 | 賃金日額の45〜80% | 受講料の20〜80% |
| 上限 | 最大150日分 | 年64万円(専門実践)など |
| 前提条件 | 30日以上の無給休暇取得 | 指定講座の受講・修了 |
| 在職要件 | 在職継続が前提 | 在職・離職どちらでも可 |
| 申請窓口 | 事業主経由でハローワーク | 本人がハローワーク |
| 併用 | 既存制度と併用可 | 新制度と併用可 |
ひより
「既存3区分の制度」とのつながり
既存の教育訓練給付金は「一般/特定一般/専門実践」の3区分で、給付率20〜80%までの幅があります。教育訓練休暇給付金で休暇期間中の生活費を確保しつつ、その間に専門実践教育訓練の指定講座を受講すれば、講座費用は最大80%まで戻る計算。同じ大学院でも「指定講座になっているか」「最大80%給付対象になっているか」で実質負担額が大きく変わります。指定講座は厚生労働省の「教育訓練講座検索システム」で確認できます。
受給できる人・できない人|雇用保険加入期間と休暇規程が鍵
教育訓練休暇給付金は誰でも使えるわけではありません。雇用保険の加入歴と、勤務先の制度整備の有無の2つでふるい分けされます。
加入期間の壁:5年以上の雇用保険加入が必要
受給するには、雇用保険の一般被保険者であることに加えて、次の両方を満たす必要があります。
- 休暇開始前2年間に12か月以上の被保険者期間
- 休暇開始前に通算5年以上の雇用保険加入歴がある
つまり社会人歴が浅い20代前半のうちは対象外になりやすく、転職を繰り返してきた人でも空白期間が長いと要件に届かないことがあります。新卒入社からそのまま勤務している5年目以降の人は基本的に対象、転職している人は加入期間の通算がカギです。
就業規則の壁:会社に「教育訓練休暇」の規定があるか
もうひとつのハードルは勤務先側にあります。給付の対象になるのは「就業規則や労働協約に規定された教育訓練のための休暇」で、本人の自発的な申請と事業主の承認を受けて取得した30日以上の無給休暇に限られます。要件を整理すると次のとおり。
- 就業規則や労働協約に教育訓練休暇制度の規定があること
- 無給での休暇であること(有給扱いだと対象外)
- 休暇は連続30日以上であること
- 休暇先での学習が、大学・大学院・専修学校、または厚労省指定の教育訓練講座、もしくは職業安定局長が定める教育訓練であること
つまり「会社にそもそも制度がない」場合、本人がいくら学び直したくても給付の対象になりません。まずは就業規則を確認し、なければ人事部門と相談して規程整備を提案するのが第一歩です。中小企業向けには「人材開発支援助成金(教育訓練休暇等付与コース)」など、企業側が制度を作るのを後押しする助成金もあり、人事から経営層への打診の材料に使えます。
シミュレーション|30〜40代会社員の自費投資ロードマップ
制度を理解したうえで、実際にどれくらいの自己負担で学び直せるかをモデルケースで試算します。給付率は所得・年齢で変動するため、ここでは目安として中央値(賃金日額の60%)で計算します。
ケース1:年収500万円・30代後半・国内MBA6か月コース
月給33万円(賞与・残業除く)・被保険者期間13年・受講料120万円(指定講座・専門実践)の前提です。
| 項目 | 金額 | 計算根拠 |
|---|---|---|
| 賃金日額 | 約11,000円 | 月給33万円×6か月÷180日 |
| 休暇給付金(生活費) | 約79万円 | 11,000円×60%×120日(被保険者10〜20年) |
| 教育訓練給付金(受講料還付) | 約96万円 | 受講料120万円×80%(専門実践・段階給付フル達成時) |
| 合計受給額 | 約175万円 | 生活費+受講料還付 |
| 実質負担額 | 約24万円 | 受講料120万円-還付96万円 |
6か月の生活費を給付金でまかないつつ、講座費用も大半が戻る計算。退職して再就職するパターンと比べ、会社に在籍したまま挑戦できるためキャリアの空白が生じない点が決定的な違いです。
ケース2:年収700万円・40代前半・専門スキル研修4か月
月給50万円・被保険者期間18年・受講料60万円(特定一般教育訓練・最大50%給付)の前提です。
- 賃金日額の目安:約16,500円
- 休暇給付金:約16,500円×給付率55%×120日 ≒ 約109万円
- 教育訓練給付金:60万円×50% = 30万円
- 合計:約139万円。受講料込みの実質負担は約30万円
高所得者は給付率が下がるため賃金との比較では物足りなく見えるものの、生活費の半分以上が補てんされる効果は大きく、退職リスクを取らずに学び直す投資効率を一気に高められます。
申請手順と注意点|事業主経由でハローワークへ
給付申請は本人ではなく事業主経由で行うのが原則です。手順は次のとおり。
申請の流れ:教育訓練前と教育訓練後の2段階
- 休暇取得前に、人事部門経由でハローワークに「受給資格確認」を申請
- 休暇開始(教育訓練開始)と同時に、賃金支払いがないことを示す賃金台帳・出勤簿の写しを準備
- 休暇終了後、または所定給付日数経過後に「支給申請書」を事業主経由でハローワークへ提出
- ハローワークの審査を経て、指定口座に給付金が振り込まれる(複数回に分けて支給されるケースもあり)
注意点:受給期間1年・キャリアコンサルティング
給付を受けられるのは休暇開始日から1年以内が原則です。妊娠・出産・育児・介護などの理由がある場合は最大4年まで延長可能ですが、自己都合で休暇を分割する場合は1年以内に消化する必要があります。また、教育訓練の方向性が雇用主と本人の合意でずれていると後でトラブルになるため、休暇前にキャリアコンサルティングを受け、受講後のキャリア像を文書化しておくのが安全です。
専門実践教育訓練の段階給付(修了+資格取得+賃金上昇で最大80%)を狙う場合は、教育訓練給付金側でも事前のジョブカード作成・キャリアコンサルティングが必須。両方の手続きは早めに人事と並走させるのが現実的です。
まとめ|キャリアを止めずに半年休む選択肢が現実に
2025年10月にスタートした教育訓練休暇給付金は、これまで「会社を辞めるか、平日夜に細々と通うか」の二択だったリスキリングに、第三の選択肢を加えた制度です。賃金の45〜80%が最大150日支給され、既存の教育訓練給付金と併用すれば受講料の大半も戻ってきます。30〜40代でキャリアの再設計を考えている人にとっては、「在籍のまま半年休んで学ぶ」というシナリオが現実的になりました。利用には5年以上の雇用保険加入と、勤務先の就業規則に教育訓練休暇制度があることが前提なので、まずは社内規程の確認から動き始めましょう。
葵
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※ 本記事は2026年6月時点で公表されている厚生労働省・雇用保険制度の情報をもとに作成しています。具体的な給付額・支給条件・申請手順は管轄ハローワークや勤務先の人事部門で必ず確認してください。
税務・資産運用・ライフプランの実務を担い、FinLaboの全記事を監修。


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