保険は「入るタイミング」よりも「入り直すタイミング」で家計に効きます。とくに共働き世帯は片働きを前提としたセオリーが当てはまらず、必要保障額が過大に設定されがち。夏のボーナスで家計に少し余裕が出るこの時期に、遺族年金・高額療養費・傷病手当金という公的保障を土台に置き直し、上乗せの保険を必要な分だけ買い直すのがFinLaboの推奨する進め方です。本記事では死亡・医療・就業不能の3層構造で、必要保障額の考え方と年収別の目安を整理します。
ひより
共働きの必要保障額、片働きモデルはそのまま使えない
「必要保障額=生活費×子どもが独立するまでの年数」というシンプルな計算式は、片働き世帯を前提に組み立てられたものです。共働き夫婦の場合、片方が亡くなってももう片方の収入と遺族年金が生活費の土台を作るため、丸ごと保険で補う設計は保険料の無駄になります。
遺族年金と配偶者収入という2本の土台
共働き世帯の必要保障額を設計するときは、公的保障と配偶者収入という2本の土台を最初に置き、そこに乗り切らない分だけを保険でカバーする発想に切り替えます。土台の例は次のとおりです。
- 遺族基礎年金:18歳到達年度末までの子がいる世帯に支給。2025年度満額は年約83万円+子の加算1人あたり約23万円台(2人目まで)
- 遺族厚生年金:会社員・公務員だった配偶者が亡くなった場合、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3に相当する年金
- 配偶者の勤労収入:残された配偶者の手取り年収。共働きなら生活費の6〜7割を維持できるケースが多い
- 勤務先の弔慰金・死亡退職金:制度がある企業なら100万〜数百万円規模。就業規則で必ず確認
これらの土台の合計が「配偶者と子どもがこの先必要とする生活費・教育費の総額」を上回れば、実は追加の生命保険はほとんど不要というケースも出てきます。
「念のため」で膨らむ重複契約の落とし穴
保険ショップで見直しをすると、しばしば「念のため」「万が一のために」というフレーズで死亡保障3,000万円・医療保険入院日額1万円・就業不能月額20万円といった標準セットを提案されます。しかし共働き世帯にこの型を当てはめると、公的保障ですでにカバーされている領域に重複して保険料を払うことになり、月額保険料が世帯合計で5〜7万円に膨らむ事例も珍しくありません。
大切なのは「不足額の見える化」です。次の3層に分解して、それぞれ土台の金額を確認してから上乗せを決めていきます。
第1層:死亡保障は「不足分だけ」で設計する
死亡保障の設計は、遺された家族が必要とするお金の総額から公的保障・勤務先制度・配偶者収入を差し引き、その差額だけを保険で埋める考え方が基本です。
遺族基礎・遺族厚生年金の目安
会社員の配偶者が亡くなった場合、遺族厚生年金の目安は「亡くなった配偶者の平均標準報酬月額×約0.55%×被保険者期間の月数×3/4」で概算できます。年収500万円で加入期間が短い若い世帯だと年40万〜60万円、年収700万円で加入20年程度なら年90万〜120万円が目安。子が18歳到達年度末を迎えるまでは遺族基礎年金と合算されるため、子2人の世帯なら年間トータル200万円前後の公的年金が入ってくる計算になります。
弔慰金・団信を差し引いた必要保障額の早見表
子2人・住宅ローン残債あり(団信付き)を前提に、共働き世帯の年収帯別に必要保障額の目安をまとめました。教育費は大学まで公立コース1人1,000万円で計算し、生活費不足額は配偶者の年収と遺族年金でまかなえない差額に絞っています。
| 世帯年収 | 教育費不足 | 生活費不足(15年分) | 公的保障・勤務先制度 | 必要な死亡保障の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 500万+400万 | 約1,200万円 | 約900万円 | ▲遺族年金・弔慰金 約1,400万円 | 700万〜1,000万円 |
| 700万+500万 | 約1,200万円 | 約600万円 | ▲遺族年金・弔慰金 約1,800万円 | 0〜500万円 |
| 900万+300万(片方が育休・時短) | 約1,200万円 | 約1,500万円 | ▲遺族年金・弔慰金 約1,700万円 | 1,000万〜1,500万円 |
住宅ローンの団信が付いている限り、亡くなった側のローンは完済されます。この点を計算に入れずに「住宅費もまるごと保険で」と考えると、必要保障額が過大に膨らむ原因になります。ペアローンや連帯債務型の場合は、片方の団信でカバーされる範囲が変わるので、契約書類で確認するのが確実です。
葵
第2層:医療保障は高額療養費と付加給付を先に押さえる
医療保障は「入院1日いくら」から考えると青天井になります。まずは公的保障(高額療養費制度)と、勤務先の健康保険組合が独自に上乗せする付加給付を確認してから、残るギャップを保険で埋める順番が定石です。
年収別・自己負担上限の月額目安
高額療養費制度の自己負担上限額は、年収帯によって以下のように区分されます(70歳未満・2026年時点)。1か月の医療費が100万円かかっても、次の金額までしか自己負担しない仕組みです。
| 世帯主の年収帯 | 1か月の自己負担上限(目安) | 健保組合の付加給付がある場合 |
|---|---|---|
| 約770万円〜1,160万円 | 約17万円+α | 2万〜3万円/月まで軽減される例が多い |
| 約370万円〜770万円 | 約8万〜10万円 | 同上 |
| 約370万円未満 | 約5.8万円 | 同上 |
大企業や官公庁の健康保険組合では、月額2万〜2.5万円を超える医療費は組合が肩代わりする付加給付制度がついていることが少なくありません。勤務先の健保のホームページで「付加給付」「一部負担還元金」といった項目を必ず確認してください。
入院日額はいくらまで削れるか
付加給付ありの企業勤務なら、医療費の自己負担は月額2〜3万円で頭打ち。ここに差額ベッド代(1日6,000〜8,000円が中央値)と食事代(1日1,380円)を上乗せしても、10日の入院で自己負担は10万〜15万円程度に収まります。医療保険の入院日額を10,000円で契約している人は多いのですが、実際の不足額に対しては入院日額5,000円で十分なケースが大半です。差額ベッドを個室で使いたい希望があるなら、その分だけ上乗せする発想で構いません。
第3層:就業不能保障は「傷病手当金の外側」を設計
働けない状態が長引くリスクへの備えは、家計にとって死亡保障よりも影響が大きい場合があります。公的保障の傷病手当金・障害年金の仕組みを先に理解しておくと、就業不能保険の必要額はぐっと絞り込めます。
会社員は18ヶ月分を土台にする
会社員・公務員が病気やケガで働けなくなった場合、健康保険の傷病手当金が最長で通算1年6か月間支給されます。金額は「標準報酬月額の3分の2」で、年収600万円の会社員なら月33万円程度、年収400万円なら月22万円程度が目安です。有給休暇と組み合わせれば、最初の1年半は手取りの6〜7割が確保できる計算になります。
したがって会社員世帯が備えるべきは、傷病手当金が切れた後(発症から19か月目以降)に、障害年金が下りるまでのブランク期間です。就業不能保険は「1年6か月経過後から支給」タイプを選べば、保険料を大きく圧縮できます。
フリーランス・自営配偶者は別軸で組み立てる
共働き世帯でも、片方がフリーランス・自営業(国民健康保険)だと傷病手当金が原則ありません。この場合は初日から支給される就業不能保険や、所得補償保険を検討する必要があります。加えて、国民年金だけでは障害基礎年金が年約83万円と手薄なため、iDeCoや小規模企業共済で老後・障害の両にらみで自助を厚くする選択も有効です。
会社員×自営のペアでは、保障設計を左右対称にする必要はありません。会社員側は「1年半後から支給される長期タイプ」、自営側は「初日から支給される短期+長期タイプ」というアシンメトリーな組み合わせが、家計効率としては合理的です。
ひより
夏のボーナスで整える3層チェックリスト
ここまでの3層構造を、実際の見直し手順に落とし込みます。夏のボーナスが入り家計に余裕があるタイミングは、証券・保険の棚卸しに最適な時期です。
3層の見直し順
- 公的保障の棚卸し:ねんきんネットで遺族年金の見込み額、勤務先健保のホームページで付加給付、就業規則で弔慰金・死亡退職金の額を確認
- 現行契約の一覧化:保険証券をすべて広げて、月額保険料・保障内容・保険期間を1枚のシートにまとめる
- 不足額の算出:本記事の3層モデルに数字を当てはめて、死亡・医療・就業不能それぞれの不足額を計算
- 削減候補の選定:不足額を超えている契約は減額・解約を検討。保険料の高い契約から優先的に手をつける
- 上乗せの検討:不足が残る領域だけ、掛け捨てタイプの定期保険や就業不能保険で最小限を上乗せ
見直しに向いていない典型パターン
逆に、この時期の見直しに向いていない・慎重に判断すべきケースもあります。
- 60代以降の終身保険:解約返戻金が積み上がっているため、残存保険料と保障残額のバランスを慎重に判断
- 直近1年以内に既往症・入院歴があるケース:解約すると再加入時に告知で引っかかる可能性が高い
- ドル建て・変額保険で払込期間中のもの:為替や運用実績の影響で解約時期次第では損失確定。解約前提ではなく、まずは払済保険への変更を検討
見直しは「解約ありき」ではなく「保障の重複と不足を可視化する」ことが目的。減額・払済・特約解除など、契約を残しつつ月額を下げる方法もあります。
記事のまとめ
共働き夫婦の保険設計は、まず公的保障と配偶者収入という土台を数字で置き、そこに乗り切らない不足分だけを保険で埋めるのが基本です。死亡保障は年収帯によっては0〜1,500万円まで下げられる余地があり、医療保険は入院日額5,000円で十分なケースが多く、就業不能は会社員なら1年6か月後からの長期型でOK。夏のボーナスシーズンに家計を眺めるついでに、公的保障の棚卸しから始めてみてください。
葵
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※ 本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。遺族年金・高額療養費・傷病手当金などの制度、および税制は今後改正される可能性があります。個別の保険契約・見直しの判断は、各保険会社の約款・勤務先の健保組合・年金事務所などで最新情報をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。


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